大阪高等裁判所 平成9年(行コ)16号 判決 1998年4月14日
大阪府八尾市南小阪合町三丁目四番一六号
控訴人
密門光昭
大阪府八尾市高美町三丁目二番二九号
被控訴人
八尾税務署長 衣川哲朗
右指定代理人
河合裕行
同
西浦康文
同
西野雅博
同
豊田周司
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人の平成三年分の事業所得税について、平成七年二月二七日付けで控訴人に対してした更正処分のうち納付すべき税額八六万七五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
第二当事者の主張
請求原因、請求原因に対する認否、被控訴人の主張(本件課税処分の適法性)、被控訴人の主張に対する控訴人の認否及び主張は、原判決「事実」第二に摘示するとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決四頁末行の「税額八六万七五〇〇円」の次に「同表<2>欄の八三万九九〇〇円に計上漏れの二万七六〇〇円を加算した合計額)」を加え、同一一頁九行目の「適示」を「摘示」と、同一九頁七行目の「一億三〇〇〇万円」を「一億三〇〇〇万円」と各訂正する。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと認定判断するが、その理由は、次の1項に原判決「理由」の記載を付加、訂正して引用するほか、次の2項に追加するとおりである。
1 引用に係る原判決「理由」の付加、訂正部分
(一) 原判決二〇頁七行目の「第四号証、」の次に「第五号証の2及び3、」を加える。
(二) 原判決二二頁一行目末尾に「なお、幾子らは、平成三年一二月二五日に右小切手を住友銀行十三支店で取り立てた。」を、同頁四行目の「取消し願い書」の次に「(乙第四号証添付のもの)」を各加える。
(三) 原判決二三頁二行目の「算定すると、」を「算定した額二億一六二二万四七〇五円から本件造成費用二三一万七五〇〇円を控除した」と訂正する。
(四) 原判決二六頁四行目の「相続法」を「相続税法」と訂正する。
(五) 原判決二八頁末行の「三九〇万円」の前に「税額控除額」を加える。
2 追加部分
(一) 控訴人は、<1>平成三年一二月二四日時点における被控訴人の本件土地の時価評価額(二億一二五八万二五〇〇円)と、控訴人が平成七年七月二八日に本件土地を売却した価額(九七五〇万円)から本件土地の造成費用(二三一万七五〇〇円)を控除した残額九五一八万二五〇〇円との差額一億一七四〇万円については、控訴人に所得がなかったことに確定したことになるものであり、また、<2>本件が法六四条の「収入金額の全部又は一部を回収することができないことになった場合には、その金額は当該所得の金額の計算上、なかったものとみなす」との規定に該当するかどうかをみると、前記の本件土地の時価評価額(二億一二五八万二五〇〇円)は右規定にいう「収入金額」に該当し、かつ右(一)の差額一億一七四〇万円は同規定にいう「収入金額の一部を回収することができないことになった場合」に該当し、その結果控訴人には所得がなかったものとみなされるから、右<1><2>のいずれにしても本件更正処分のうち右所得がなかった部分は取り消されるべきである旨主張するが、これらの主張は、結局、本件土地の時価を実際に売却した平成七年七月二八日の売却価額である九七五〇万円とすべきであるとの主張に帰するものといえる。しかし、法三六条二項は、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額と定めており、控訴人の収入金額は、右1において引用する原判決「理由」二1、2記載のとおり、本件事務に対する対価すなわち弁護士報酬として本件土地を安価に取得した時点である平成三年一二月二四日の本件土地の価額により算出されるべきものであり、要するに右収入金額は平成三年一二月二四日時点での本件土地の評価額(二億一六二二万四七〇五円)から控訴人の支払額(四〇〇〇万円)と土地造成費用(二三一万七五〇〇円)を控除した差額とすべきものであるから、控訴人の右主張は採用できないというほかない。
(二) 本件課税処分が憲法二九条に違反するといえないことは右引用した原判決の説示のとおりであるが、なお若干付言する。この点についての控訴人の主張は、本件課税処分は、それによる課税額及び控訴人の本件土地取得に関するその他の課税額の合計が、その後地価が大幅に下落した時点における本件土地売却による控訴人の実際の収入額を約三倍も上回るという、控訴人にとって不当な結果をもたらしているから、個人の財産権を保障した憲法二九条に違反する、というものであり、要するに、控訴人の右主張は、憲法違反の主張とはいいながら、実質においては、本件課税処分が依拠している所得税法その他関係法規の合憲性ないし、それら法規の適用自体の違憲、違法を問題としているものではなく、本件課税処分によってもたらされた結果が不当であることが本件課税処分を取り消すべき事由となるという趣旨のものと解される。右引用した原判決における認定事実に甲第一四号証及び弁論の全趣旨をあわせると、本件土地周辺の地価は、控訴人に本件土地取得による収入が生じた平成三年に昭和六一年ごろの三倍以上にも上昇し、右平成三年を頂点としてその後大幅に下落し、控訴人が本件土地を売却した平成七年には右平成三年の四五パーセント程度になっている(その後もなお下落を続けている)のであり、これによって、控訴人主張のような、ないしはそれに近い、本件課税処分が控訴人にとって酷と感じられる事態となったことが窺われるところであり、さらに、弁論の全趣旨によって、控訴人が本件土地を取得したのは、将来の値上がりを期待したり、転売利益を得ることを意図したりしたことによるものではなかったことが明らかであることも考えると、控訴人が本件課税処分を不当と抗争するのも、心情としては理解できるところである。しかし、本件課税処分をするについての被控訴人の所得税法その他関係法規の解釈、適用に違法のないことは右引用した原判決の説示のとおりであり、また、控訴人のいう本件課税処分によってもたらされた結果の不当は、右法理の解釈、適用とは関係のない土地一般の価額の急激かつ大幅な変動を原因とするものであるから、仮に本件課税処分を控訴人のいう右不当を理由として取り消すとすれば、法規上の根拠なしに、ないしはせいぜい控訴人のいう憲法違反に名を借りて、取り消すこととなるものであり、このようなことは本件のような訴訟事件の処理においてできることではなく、結局、控訴人の右憲法違反の主張は採用することができないものである。
(三) 控訴人は、過少申告加算税について、<1>本件事務の事業所得については、平成二年分は申告納税済みであり、平成三年分は事業所得たる収入金額ないし収入すべき金額が存しなかったから申告のしようがなかったこと、<2>本件土地の取得は、土地売買契約に基づくものであって、本件事務の対価たる弁護士報酬に係るものではないから、本件土地の評価差益は事業所得たる収入金額に該当しないと信じていたこと、<3>本件土地の取得時期は平成四年一月二二日(売買契約成立日)ないし同月二三日(所有権移転登記日)と信じていたから、本件土地の評価差益を平成三年分の事業所得たる収入金額として申告のしようがなかったこと、<4>本件土地の評価差益が本件事務の対価であり事業所得たる収入金額であるとしても、その収入金額がいくらであるか不明で申告のしようがないし、平成四年一月二二日に売買契約が成立し、同月二三日に所有権移転登記をした土地売買につき平成三年分の事業所得として申告することは不可能であること、の各事情があることを理由として、本件土地の評価差益を平成三年分の所得として申告せず、通則法六五条四項に定める税額の計算の基礎としなかったことについては、正当な理由があると主張する。しかし、右条項にいう正当な理由がある場合とは、税法の解釈に関して申告当時公表されていた見解がその後改変されたことにより修正申告し又は更正を受けた場合や、災害又は盗難等に関して申告当時に損失とすることを相当としたものがその後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受けたり盗難品の返還等を受けたりしたため修正申告し又は更正を受けた場合など、申告当時は適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告にしかならないこととなって、申告した税額に不足が生じたといった、当該申告が過少申告となったことについて真にやむを得ない理由によるものである場合、換言すればかかる申告をした納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるような場合に限られるものであり、単に納税者に税法の不知や法令解釈の誤解があるにすぎないような場合は、これに当たらない解すべきである。
これを本件についてみると、右1において引用する原判決「理由」二1、2記載のような控訴人が本件土地を取得した経緯や本件各処分に至る経緯に照らせば、控訴人の主張する右各事情は、いずれも単に控訴人の税法の不知や法令解釈の誤解によるものにすぎないものであり、右にいう正当な理由に該当しないことは明らかである。なお、付言するに、控訴人は、本件土地の評価差益が事業所得たる収入金額であるとしても、その収入金額が不明である以上、申告のしようがないと主張するが、控訴人は、本件土地を弁護士報酬として取得した以上、これが事業所得に該当することは認識し得たはずであり、本件土地の評価額等について不明な点があれば税務署に相談するなどして収入金額を判断することは可能であったから、単に本件土地の適正な評価額か分からないということだけでは正当な理由に該当しないことは明らかである。
二 結語
よって、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六七条一項、六一条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岨野悌介 裁判官 古川行男 裁判官納谷肇は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 岨野悌介)